「私はこう見えてもこの会社が大好きなんですよ。この会社や、この会社が扱っている商品が好きで、もっとたくさんの人に見てもらいたい、っていつも思ってるんです。で、こう思っている社員が私以外にもたくさんいるとしたら、その社員に協力してもらえばいいだけのことじゃないですか。一石二鳥。一石三鳥かな。簡単なことですよねえ?」
「…は?」
「ショーだって、うちの社員を使えばいいじゃないですか、幸いうちはジュエリー会社で、きれいな女性社員がたくさんいるじゃないですか、ってね」
 思わず目を見開いたまま話を聞いていた遥は、目の前で明るい笑顔で頬杖をついている男の顔を見ながら必死で頭をフル回転させた。まさに、普段滅多には使わないようなスピードで。そして当然行き着くべき答えに行き着き、思わず椅子から身を浮かせて声をあげてしまった。
「それで私ですか?!」
「そうですよ」
 あっさりと言ってのけた高井に対して、遥は言葉を失ってしまった。確かに部長からショーモデルとは言われたけれど、そんな本格的なショーだったとは。ちょっとジュエリーを身につけて見せて、1、2回写真でも撮るような程度かと思っていた。この私が、ショーの舞台へ? モデルクラブのモデルの代わりを?
「大丈夫ですよ。今いろいろ話をさせてもらって、私にはよくわかりましたから。向井さんなら大丈夫だと思います」
「なんでそんなことわかるんですか!」
「わかるんですよ。皆に言っているわけじゃない、ちゃんと落選の方もいらっしゃいます。でも向井さんにはぜひ来てもらいたい。どうですか、やってみませんか」
「私には絶対に無理です」
「できますよ。気取る必要はなくて、そのまま出てくれればいいんだから」
「なおさら無理ですっ」
 …しかし、10分後、不毛な押し問答を繰り返した末に、遥は「ついうっかり」高井に乗せられてショーモデルを引き受けてしまった。

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