そう前置きしてから、ふと真顔で遥の顔を見やって、高井は小さく吹き出し、それから遠慮なく屈託ない笑い声をあげた。印象はいたって穏やかで、何もかもがのんびりしているのに、なんて表情の変化の豊かな人なんだろう、と遥は思った。
「そんなにかまえる必要はないですよ。面接と思わないでください。就職試験というわけでもないんだし、ただ私と話をしに来たと思ってもらえればいい」
 そんなつもりはなかったけれど、高井から見たこのときの遥はかなり緊張していた、あるいは、この男は一体何者なんだろうというような警戒心にあふれた表情をしていたらしい。
 遥は頷いて、小さく息を吐くと、改めて椅子に座り直して姿勢を正した。
「なぜ自分が、って思いませんでしたか?」
「思いました、もちろん。事情を全く説明していただけなかったので、よけいに。うちの部の部長には、少しでも興味があるのならここへ来るようにと、それしか言われませんでしたが、それは高井さんの指示なんですか?」
「ああ、そうです。どれだけよく説明しても、どうしても人を介せば話は正確に伝わらないでしょう。今回の企画に関しては、微妙なニュアンスまでよく伝えて話し合って、納得して参加してくれる人を採用したいんですよ」
 遥は黙って大きく頷いてみせた。
 高井の声は、遥の耳にするりとなめらかに入ってくるようだった。しかも、高井の声のせいなのか仕事の魅力のせいなのか、いつの間にかそれらの発するエネルギーに惹かれて高揚していく自分がいた。しかし、そんな自分をどこからか冷静に眺めているもう一人の自分も存在していて、さっきまでとはうって変わった妙に落ち着いた気分になっていた。
 高井という男には、向き合った人の警戒心を解かせ、いつのまにか話に引き込まれてついうっかり肩の力を抜いてしまうような、不思議な力があるようだった。

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秘密メモ。

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