しかし、簡単なサイズ合わせと色合わせをし、数点の中から一番似合うと思われた純白の細身のドレスに着替えて、いざ、隣接する面接会場の小会議室へ続くドアを開けた時、遥はまず面食らってしまった。そこには、高井が面接官としてたった一人で座っていたのだ。企画宣伝部長以下、総勢何名がこの中にいるのかと大いに緊張しながらドアを開けたというのに、先ほどの一押しのやり手にはちっとも見えない高井が、一人で座っているとは。
「ああ、さきほどはどうも。向井さんでしたよね」
 そう言って、遥に自分と向かい合って座るよう指示すると、高井は、面食らっている遥に気づく様子も無く、挨拶もそこそこにさっさと今回の企画についての説明を始めた。
 いざ話が始まって、遥はいささか唖然とした。その座り方や醸し出す態度、仕草や言葉、その全てが、さっきの男とはまるで別人なのだ。
 販売促進と新たな顧客層の獲得をねらって定期的なジュエリーショーを開催するということ。その企画運営は、全て自分に一任されているということ。会議やプレゼンに慣れた感じが、手にとるように伝わってきた。
 しかし高井はまるで、今自分がしている説明はまったく表向きのもので、言わされているのだ、とでも言うように事務的に話し、あっという間に話し終えてしまった。そして一息つくと、顔をあげてまっすぐに遥を見据え、子供のような明るい目をして声色を一変させた。
「今回の企画の大枠は今お話ししたとおりです。さてと。上の考えや経営戦略ということでは、また別の観点から見なくてはいけない点もあると思うんですが、ここからは私個人の考えとして話をしますので、そのつもりで聞いてください」

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